LIVE REPORT

11月14日、風呂ロックvol.17・タテタカコさんのライブが開催された。
この日は11月半ばだというのに、寒波が吹き荒れ12月下旬なみの気温。ぱらぱらと朝から小雨がふり、弁天湯の前を行きかう人はコートを着込んで、それぞれの場所へと急ぐ。
開場時間が近づくにつれて弁天湯の前に人が列をなし、寒さに震えながら待っていると、風呂ロックから甘酒のサービスが。「あったかいね」、「うれしいね」そんな声と笑顔が、その場にあふれた。
18時、開場とともに多くのお客さんが入場。外の寒さに、我先にと入場したお客さんの目に飛び込んできたのは色とりどりの豆電球で装飾された、ドリンクコーナー。まるでクリスマスさながら。ボジョレーヌーボーの解禁日ということもあり、この日のドリンクメニューはボジョレーヌーボーがメイン。ワインといっしょにフードメニューのアーモンドやミニサラダをかじりながら、開演をまつ。ワインがおなかのなかに入ると、ぶどうの香りがひろがって、体がぽかぽかと温まった。

19時、開演。
白いシャツにストライプのコットンパンツを履いたタテさんが、舞台にあがると「わっ」という歓声とともに、会場のお客さん全員がタテさんにつられてニカっと笑った。
この日のライブは、タテさんのトークからゆっくり始まった。沖縄市場のお菓子屋さんに行ったときのこと。「わし」と自称するタテさんをみて、お菓子屋のおばちゃんがタテさんを男性と勘違い。「小栗旬だ!」といわれたそうだ。そこで、会場一同大爆笑。「いつも行っているお店なのに」と、一緒にいた友人にタテさんがつぶやくと、友人から「小栗旬って誰?」とのコメントが。そこで「おとこの人です」というタテさんに、またまた一同爆笑。そんな話からはじまったライブは、一曲目の『太陽』をタテさんが奏で始めると、しんと静まり返った。
外で吹く木枯らしの音だけが浴場に響く。誰もがタテさんを息をするのも忘れたかのように見つめる。そして、『太陽』からはじまり『心細いときにうたう歌』、『宝石』、『手のなるほうへ』と曲は続く。たまにでるミスタッチや声のつまりも、曲がすすむにつれて自分のペースをつかみ、弁天湯の浴場をタテさんのカラーでゆっくりと染めていった。

ライブの途中、タテさんがケロリンの桶を舞台上から観客席に配るシーンがあった。弁天湯のオーナーの三枝さんからもらったホカロンやバナナまでも配り、お客さんは「これから何がはじまるんだ」と笑顔でそわそわ。全員に桶がいきわたると、タテさんの掛け声で『幸せなら手をたたこう』ならぬ『幸せなら桶たたこう(風呂ロックバージョン)』の大合唱がはじまった。
タテさんの歌う歌詞にあわせて、桶をたたいたり、かぶったり。タテさんの「桶なでよう!」の歌詞に、全員が桶をなでると、あまりの静けさに会場は一同爆笑。それぞれが隣のお客さんと顔を見合わせて笑った。その後の『またやっちまいました』にもお客さんは桶で参加。タテさんの歌声に合わせて桶をならし、会場が暖かな空気で満たされ、ひとつになっていくのを誰もが肌で感じた。

その後、『卑怯者』、『えのぐ』、『明日、僕は~道程』、『帰路』と曲は続いた。小さな体ひとつで力強く歌い、透き通った声で私たちの中を通り抜けていくタテさん。その真剣な眼差しで見つめられると、全てが見透かされ裸になったような、何も抗うものなどないような感覚になる。目に涙を浮かべながらも瞬きを忘れてじっとタテさんを見つめる人。ぐっとにぎったコブシにタテさんの歌声をかみ締めるように立ちつくす人。始終笑顔を絶やさず、タテさんの演奏を見守る人。それぞれが、それぞれの思いを抱きながらタテさんを見つめ、ライブは終盤へとむかった。

アンコールでは『秘密の物語』、『人の住む街』、『眠りつくまで』を演奏。お客さんの視点、呼吸がひとつになった。
白い歯を見せて満面の笑みで「みなさん、またお風呂で会いましょう。いつも会う場所ではないところで会えてうれしい」というタテさんに、それまで様々な表情で見ていた観客の笑顔までも一緒になって、誰もが歯をだしてニカっと笑った。

木枯らしの吹き荒れたこの日、暖かな光と空気に包まれた弁天湯には、銭湯のペンキ絵の雲のように、タテさんの歌声がいつまでもゆっくりとたなびいていた。

ライブレポート/猪股 有佐